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議論を meet でするな、説得を Notion でするな

この記事は Timee Advent Calendar 2024 シリーズ 1の2日目の記事です。

こんにちは

タイミーで働いている口藏(くちくら)です。今年の3月に入社し、6月からエンジニアリングマネージャー(以下、EM)をしています。先日は以下のイベントにてEMとして登壇しました。

timeedev.connpass.com

 

資料はこちら。

speakerdeck.com

内容としては「リモートでコミュニケーションする際にはカメラを通じた視覚的情報よりもマイクを通じた聴覚的情報のほうが優位ですよ、かといって視覚的情報も無ではないのでカメラもつけましょうね」というものです。まあそうでしょうね、という感じなのではないでしょうか。

 

新たなる気づき

上の資料では、こちらの論文(以下、田中・森論文)を引用させていただきました。

 

田中 彰吾, 森 直久 (2022). 間身体性から見た対面とオンラインの会話の質的差異

https://www.jstage.jst.go.jp/article/epstemindsci/4/1/4_2/_article/-char/ja/

こちらの論文は、間身体性という文脈における同調と同期について説明し、対面とオンライン両場面でのコミュニケーションにおいて、それら同調と同期がどのように行われているか、またその発生頻度について実験から計測・比較し、考察を行ったものです。

 

資料には引用しませんでしたが、登壇にあたってこちらの論文(以下、門脇論文)も読んでいました。

門脇 奈那 (2020). 対面・非対面の違いがパフォーマンスに差異を生むか

https://www.kochi-tech.ac.jp/library/ron/pdf/2020/03/15/a1210423.pdf

こちらの論文は、対面とオンライン両場面でのコミュニケーションを伴う作業において、生産性を実験から計測・比較し、考察を行ったものです。

 

これらの論文から、今回はこんな仮説を立ててみました。

 

『議論を meet でするな、説得を Notion でするな』

本当にそうなのでしょうか? ひとつずつ見ていきましょう。まずは前者について。

 

『議論を meet でするな』

田中・森論文では、同期・同調の種類が視覚的なものから聴覚的なものに代替されているほか、同調・同期の回数も減少していることが示されていました。また、コミュニケーションにおける同調・同期の果たす効果については以下のように説明されています。

  • 同調:伝達されている内容が相互に伝わっていることを表現しあう行動。
  • 同期:コミュニケーションの進行上の局面を区切る(話者の交代などが起きる)行動。

これらのことから、オンラインでのコミュニケーションでは、相互の内容確認や進行局面の区切りが、対面に比較した際に低頻度であると言えそうです。

 

一方で、議論においては相互の内容確認や進行局面の区切りが高頻度で行われることが生産性の高さを担保しています。様々な意見を出すためには、参加者が相互に意見を把握しつつ、局面を展開させてそれぞれの意見やアイデアを述べる必要があるからです。

門脇論文での実験においては、オンラインコミュニケーションでの生産性は対面でのそれに対して同等であったことが示されているものの、同時に両者の協力度合いが高くなるほど生産性が下がることも示されていました。

「オンライン通話において、顔見知りのふたりが協力的に作業を進めようとするが、協力的であるがゆえに互いを邪魔しないように気遣っている間に、時間だけが過ぎ作業が進まなかった」。論文における考察では深入りされていないのですが、おそらく場面としてはこうなのではないでしょうか。私たちはすでに同調・同期の回数が減少することを知っているので、なんとなく想像できます。

そう言われてみればそうかも?

思い当たる節もあります。meet などのオンライン通話上では視覚的な同期・同調手法が有効に使えないので、たとえば直接的に相手のほうを見て手だけで「どうぞ」と意見を促すことはできません。代わりに音声で「〇〇はどう思う?」と聞く必要があります。

また、話し手が聞き手の態度を視覚的に汲み取る方法も限定されていて、聞き手としても話し手に対して「聞いていますよ」あるいは「自分の意見を言いたい」などと視覚的に示すことができません。代わりに音声で「なるほど〜」「質問してもいいですか?」などと示す必要があります。

上記の通り聴覚的な同調・同期が支配的になるオンライン上でのやりとりですが、音声の到着にはしばしばラグが発生してしまいます。その結果タイミングがズレて、上記のような聴覚的代替手段が複数人のあいだで衝突してしまっているような場面もしばしば目にします。

 

上記のことから、meet のようなオンライン通話上では、議論を行わないほうが良いのではないでしょうか。

 

議論は Notion でやれ

「では、どこで議論すべきなのでしょうか」という問いに対する答えがこれです。Notion などの非同期コミュニケーションの場においては、同期による局面の区切りや局面そのものがほとんど意識されません。そのため参加者は、ある議題について好きなタイミングでアイデアを出すことができます。誰かに「意見はある?」と促されるのを待ったり、「質問いいですか?」と発言したりする必要はないのです。このことから、非同期的なコミュニケーションという場には、参加者を束縛するような局面がほとんど存在しないとも言えそうです。

 

続いて後者についても見ていきましょう。

『説得を Notion でするな』

説得とは、一方が他方に自分の意見を納得させることを目的としたコミュニケーションです。アイデアを出して意見をまとめようとする議論とは目的が異なっています。説得では相手の意見表明は必ずしも必要ありません。局面は、むしろより区切られないことが求められるのです。

しかし、上述の通り Notion 上での非同期的なコミュニケーションでは局面やその区切りが意識されません。そのため説得を目的とした話し手にとっては、参加者に自分の意見を聞くという行為を強制することができません。一方で meet や対面などの同期的コミュニケーションにおいては参加者を束縛する局面が存在するため、より話し手の意見を聞くように強制でき、説得の目的により適してもいるのです。

 

このことから、説得したい場合には対面や meet などを選ぶべきでしょう。

ただし、状況が限定的でもある

たしかに二つの仮説は両論文と実例に基づけば正しそうにも思えますね。しかしながら、とくに門脇論文の生産性に関する実験は状況が限定的(ほとんどの実験対象者が初対面同士)でもあることから、とくにほとんどの参加者が顔見知りである会社という場では、すべてのコミュニケーションがそのまま適用できるとは限りません。

また、 Notion 上での議論については問題点もあります。局面が意識されないことについてはすでに述べましたが、それゆえに議論への参加を強制できないのです。実際、チームに対して資料を示して意見を求めたが、なかなか見てもらえないという場面もしばしば目にされるのではないでしょうか。そういった場合には「こちら確認お願いしますー」などとリマインドしたり、それでも見てくれない人に対するフォローを考えたり行ったりといった工夫が必要になってきますが、それはそれで手間でもあります。メンバーの参加意欲や関心に沿わない議題については、meet などの局面のある場で議論するのが適しているかもしれません。

 

おわりに

以上から、想定された状況が実際の現実に当てはまる場合においては、議論は Notion などで非同期的に、説得は meet などで同期的に行うのがより良いのではないでしょうか。一方でそうでない場合にはうまく当てはまりそうにないため、状況による使い分けが必要そうです。

さて、この流れでカジュアル面談の案内をすると非常に勘ぐられてしまいそうですが、タイミーでは一緒にはたらく仲間を積極的に募集しています。タイミーという会社やその取り組み、ビジョン・ミッション・バリューなどについてもっともっと知りたいという方、また冒頭の資料で意識されているオンラインでの注意点を押さえたコミュニケーションの実践について実感したい方、そのほかの方々も、ぜひカジュアル面談でお話ししましょう。

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